ブックタイトル茨城県霞ケ浦環境科学センター年報 第10号2014(平成26年度)

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概要

茨城県霞ケ浦環境科学センター年報 第10号2014(平成26年度)

Ⅵ研究報告・調査報告がって,ステージⅠおよびⅡとⅣにおける,霞ヶ浦の植物プランクトンによるPAR捕捉効率(図5,表1)は,他の富栄養湖と同程度であったと考えられた。ステージⅡとⅣでは,トリプトンの鉛直消散係数K Tの上昇が起きていたものの,POMの光減衰寄与率は約60%のまま維持されていた(図5,表1)。これは,POMの鉛直消散係数K PもK Tの上昇と共に上昇したためである。上述したように,トリプトンなどの非生物的な成分によって光が制限され始めており,非生物の減衰に植物プランクトンの自己被陰を加えたZ euは,ステージⅠではおよそ3 mに達していたが,ステージⅡやⅣでは2 m前後まで縮小していた(表1)。最大水深が7 mの霞ヶ浦では,植物プランクトンの生産がプラスになるZ euが約1 m縮小されることは,植物プランクトン群集に大きな影響を与えると推定された。しかし,これらのステージのPOMはステージⅠより高くなった。この時,霞ヶ浦ではPlanktothrixが出現しており,高い優占率を示していた9)。Planktothrixは光が制限された環境で優占することが指摘されている藍藻である15), 16)。このことから,ステージⅡとⅣの期間ではトリプトンによる光の遮蔽の影響を受けていたが,光が制限された環境に適応できる種が出現したことで,K Pの光減衰寄与率がステージⅠと同様に60%前後を維持できたと考えられた。霞ヶ浦湖水中のトリプトン濃度が増加する要因は,堆積物の再懸濁もしくは流入河川からの供給が考えられる。Effler et al. 17)は,New York(USA)の7貯水池9水域の調査から,これらの水域では,降雨時の濁水流入と堆積物の再懸濁によるトリプトン濃度の変動が,光環境を制御していることを明らかにしている。納屋ら18)は,北浦(最大水深7 m)におけるセディメントトラップによる調査から,沈殿物の80%が湖底堆積物の再懸濁によるものであるとしている。霞ヶ浦は,北浦に隣接した湖沼であり,ほぼ同じ水深であるため,湖底堆積物の再懸濁が起こり,潜在的にトリプトンが増加しやすい環境であることが考えられる。しかしながら,通常では,堆積物の再懸濁は一時的なものであり,1993年から2004年にかけてのトリプトンの連続的な増加を説明するには不十分である。また,流入河川からのSS供給量は,減少する傾向にあり,湖内のトリプトン濃度を増加させた要因ではないことが指摘されている19)。本研究で見られたステージⅢのトリプトンの減衰寄与率の増加は,トリプトンが原因であるとされている白濁現象を反映していると考えられた。本研究の結果,白濁現象を引き起こしたトリプトンの連続的な増加(図4)は,1993年から起きていたことが示された。白濁現象の原因物質は粒計が1μm以下の炭酸カルシウムの結晶が主な成分であるとされており7),長期間湖水に浮遊やすいもの20)であったことが示唆されている。また,関ら20)は,1997年から2004年にかけて,堆積物が巻き上がりやすくなっていることを示している。したがって,1993年から1霞ヶ浦の底質の変化に伴った巻き上げ量の増加と2再懸濁物の湖水への長期的な浮遊によるトリプトンの蓄積が起きており,人の目でも確認できるようになった現象が白濁現象であったと推定された。白濁現象は,霞ヶ浦においてのみの現象ではない。アメリカの五大湖のエリー湖やミシガン湖,オンタリオ湖では,炭酸カルシウムの微粒子によって湖水が白濁する現象(Whiting Event)が確認されている21), 22)。したがって,本研究で得られた式7で示される知見は,湖水の白濁が起こる湖沼を対象とした研究に,有益な情報を提供すると考えられた。謝辞本研究は国立環境研究所の霞ヶ浦データベースを利用させて頂いた。この場を借りて謝意を表する。5参考文献1) Kirk, J. T. O. (2010) Light & Photosynthesis inAquatic Ecosystem 3 rd edition. CambridgeUniversity Press, Cambridge.2) Megrad, R. O., J. C. Settles, H. A. Boyer and W.S. Combs Jr. (1980) Lights, Secchi disk andTrophic States. Limnology and Oceanography,25: 373-377.3) Tilzer, M. M (1983) The importance of fractionallight absorption by photosynthetic pigments forphytoplankton productivity in Lake Constance.Limnology and Oceanography, 28: 833-846.4)野内孝則,外岡建夫(2004):透明度から見た霞ヶ浦北浦の環境変動.茨城県内水面水産試験場調査研究報告, 39: 24-41.42茨城県霞ケ浦環境科学センター年報,No.10 2014