ブックタイトル茨城県霞ケ浦環境科学センター年報 第9号2013(平成25年度)
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茨城県霞ケ浦環境科学センター年報 第9号2013(平成25年度)
Ⅵ研究報告・調査報告ランクトン由来の各画分有機物の生産量,分解量,流出量の年間積算値を計算した。計算期間は,最初の分解実験用サンプル採取日である2010年8月3日から,一年後の2011年8月2日までとした。植物プランクトン由来L-POCの初期値は,2010年8月3日のL-POCの実測値をそのまま用いた。L-DOC,R-DOCの初期値については,Fukushima et al. 11)の研究を基に,実測値にそれぞれ0.9,0.4をかけた値とした。植物プランクトン由来のR-POCについては,堆積速度を測定していないため,湖内濃度の予測は行わず,生産量の年間積算量のみを算出した。R-POCの増減は他の画分の増減には影響しない構造になっている。3結果と考察3.1 L-POC濃度の計算値と実測値比較西浦湖心におけるL-POC濃度の季節変動にモデルをフィッティングさせた結果,K,μ,θ,Tm,To,β,k1max及びk2maxについて,Table 1に示した値が得られた。これらのうち,K,μ及びθは植物プランクトンの増殖に関わるパラメータである。得られた値を用いると,20℃において植物プランクトン現存量が1mgC/Lのとき,その比増殖速度は0.52 /dと計算される。この値はこれまでに淡水植物プランクトンの比増殖速度として報12)告された値(たとえば,Reynoldsの研究)の範囲内であり,妥当な値といえる。Tm,To及びβは有機物分解に関するパラメータであるが,Toは一般的な中温細菌における値(37°C 9))に近い。また,10°Cから38°Cの範囲でのQ 10(温度が10°C上がるごとに反応速度が何倍になるかの指13)数)は1.8~3.3となり,これも文献値と近い。Table 1.モデルへのフィッティングによって得られた各種パラメータの値K(mgC/L)27μ(/d)0.086θ(/℃)0.092Tm(℃)50To(℃)38.87β(無単位)0.18k 1max(/d)0.41k 2max(/d)0.14従って得られた値は現実的なものと言える。これらの値を使ったL-POC濃度再現結果をFig.2aに示す。フィッティングで得られたとおりToを38.87℃とした場合,計算値と実測値は非常によく一致した。Fig. 2bには,モデルから予測される表層の一次生産量とその実測値の比較を示してある。この項目についても計算値と実測値はよく一致していた。従ってこの期間に関しては,Table 1に示したパラメータが妥当であると考えられる。ただし,分解の最適水温をわずかに変えただけで,モデルの再現性は非常に悪化した。その例として,Fig. 2aには,Toが38.87℃の場合以外に,38℃及び39℃の場合のL-POC濃度の予測値を示してある。Toが0.9℃変わっただけで,L-POC濃度(すなわち,植物プランクトンの密度)は冬季の減少から回復しないという予測結果になった。このように大きく予測結果が変わってしまう原因としては,1分解の最適水温と生産の最適水温の僅かな差で湖内L-POCの濃度が決定されている,2活性のある植物プランクトンと,植物プランクトンの遺骸では分解速度が大きく異なる,等の可能性が挙げられる。このような問題をふまえ,本モデルの構造についてはさらに改善していく必要があると考えられる。3.2植物プランクトン由来DOCの動態予測L-DOC濃度について,植物プランクトン由来物の予測値と,実際の値(すなわち,植物プランクトン由来物以外も含む値)の変動をFig. 2cに示す。R-DOC濃度について,同様のものをFig. 2dに示す。実際のL-DOCの挙動は,植物プランクトン由来L-DOC計算値の挙動とは異なっていた。これは植物プランクトン以外のL-DOCの寄与を示唆する結果である。ただし,分解に関する各パラメータ(Tm,To,β)が,L-POCとL-DOCでは異なるという可能性もある。どちらの影響が大きいのかについては更なる研究が必要である。植物プランクトンによる有機炭素の生産は9月初旬にピークを迎えていたのに対し,植物プランクトン由来R-DOCの濃度は9月中旬にピークを持つことが予測された。これは,光合成生産から10日程度遅れてR-DOCが蓄積してくることが影響していると考えられる。R-DOCの濃度は季節変動することがこれまでにも報告されている14)が,本研究により,その一因が植物プランクトンにあることが示唆された。42茨城県霞ケ浦環境科学センター年報,No9,2013