ブックタイトル茨城県霞ケ浦環境科学センター年報 第9号2013(平成25年度)
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茨城県霞ケ浦環境科学センター年報 第9号2013(平成25年度)
Ⅵ研究報告・調査報告の系が50μmols m -2 sec -1の系を下回り,11℃未満で20μmols m -2 sec -1の系を下回った15)。11℃から20℃の範囲では,それぞれの光条件で増殖速度の減少が異なる傾向を示した15)。霞ヶ浦から分離したPla. suspensaの増殖速度は,12℃から20℃の範囲では,光条件に関わらず,0.2 day -1から0.3 day -1を維持していた(Fig.3a)。したがって,20℃未満におけるPla. suspensaの増殖は,水温に依存しており,光が2μmols m -2 sec -1以上ある環境では増殖が可能であることが示唆された。15)他の試験と比較すると,同じ温度域,20μmolsm -2 sec -1の系におけるAph. flos-aquaeの増殖速度が0.2 day -1前後であったが,本研究のPla. suspensaは,2μmols m -2 sec -1においても0.2 day -1の増殖速度を維持していた。したがって,霞ヶ浦から分離したPla. suspensaは弱い光環境においても増殖を維持できることが示唆された。Planktothrixは,有光層より深い深度で,極大を示すことが見られており7-11),弱光環境に適応できるとしている16, 17)。Pla. suspensaも,本研究の結果と鉛直分布調査,擬似現場試験の結果から2, 3),弱光環境に適応できる種(Shade-adapted Species)であるといえる。200μmols m -2 sec -1の系と30μmols m -2 sec -1の系で培養株の色相が変化した要因は,色素産生が光環境で変化したことが示唆された。200μmolsm -2 sec -1の系では,450 nmから500 nmまでの吸収スペクトルが相対的に増加した(Fig.2)。450 nmから500 nmに吸収帯を示す色素は,カロチノイドであり,藍藻はβ-カロチン,エキネノン,ゼアキサンチン,ミクソキサントフィルをもつ18)。Paerl 19)は,Microcystisがカロチノイドの含有量を増加させて,強光と紫外線に抵抗性を示すことを報告している。200μmols m -2 sec -1の系における相対的な450 nmから500 nmの波長帯の吸収の増加は,Microcystisと同様に,カロチノイド産生の増加によるものであると考えられる。藍藻は補助色素として,フィコエリスリン,フィコシアニン,アロフィコシアニンから成るフィコビリンタンパクをもち,フィコシアニンは620nmに吸収極大をもつ18)。フィコビリンタンパクは,光環境や栄養条件によって調整される20)。強光条件では,過剰な光励起がもたらす光学系の損傷を防ぐために,フィコビリン含有量を減少させる20)。200μmols m -2 sec -1の系における620 nmの吸収帯の相対的減少は,Pla. suspensaの強光に対する応答であると考えられた。5まとめ霞ヶ浦で出現したPla. suspensaは,最大増殖速度が低く,通常,優占しにくい種であるが,低水温・弱光環境においても増殖速度が維持される能力があることが示唆された。したがって,霞ヶ浦の冬季から春季において,有光層以深である深度3 m以深で増殖して,ブルームを形成したと推定された。霞ヶ浦では,1998年から2005年に白濁現象が確認されており21, 22),潜在的に光制限状態であったと考えられた。そのため,Pla. suspensaが優占しやすい環境であったと示唆された。6参考文献1)本間隆満(2007)霞ケ浦における藍藻ユレモ目のフロラ,茨城県霞ケ浦環境科学センター年報第3号, p124 ?128.2)中村剛也,花町優次,北村立実(2011)霞ケ浦(西浦)におけるユレモ目Planktothrixsuspensaの季節変動と水平・鉛直分布.茨城県霞ケ浦環境科学センター年報, 6: 33-40.3)中村剛也,花町優次,北村立実(2012)霞ケ浦・西浦における春季ブルームを構成する植物プランクトンに対する光環境の影響.茨城県霞ケ浦環境科学センター年報, 7: 35-41.4) Imamura, N.(1981)Studies on the waterblooms in Lake Kasumigaura. Verh. int. Ver.Limnol. 21: 652?658.5) Paerl, H. W., Hall, N. S. and Calandrino E. S.(2011)Controlling harmful cyanobacterialblooms in a world experiencing anthropogenicand climatic-induced change. Science of The TotalEnvironment, 406: 1739?1745.6)鉾碕有紀,塚崎嘉彦,加藤賢二(2003)三方湖で優占する糸状藍藻Planktothrix agardhiiの増殖特性について,福井県衛生環境研究センター年報, 2: 98-102.7) Bonilla, S., Aubriot, L., Soares, M.C., Gonzalez-Piana, M., Fabre, A., Huszar, V. L., Lurling, M.,Antoniades, D., Padisak, J. & Kruk, C.(2012)What drives the distribution of the bloom-formingcyanobacteria Planktothrix agardhii andCylindrospermopsis raciborskii? FEMS MicrobiolEcol., 79: 594-607.38茨城県霞ケ浦環境科学センター年報,No9,2013