ブックタイトル茨城県霞ケ浦環境科学センター年報 第9号2013(平成25年度)

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概要

茨城県霞ケ浦環境科学センター年報 第9号2013(平成25年度)

Ⅵ研究報告・調査報告1-1霞ヶ浦から分離した藍藻Planktothrix suspensaの増殖特性について中村剛也The Growth Characteristics of Planktothrix suspensa Isolated in Lake Kasumigaura(Nishiura).Koya NAKAMURAキーワード: Planktothrix suspensa,水温,光環境,比増殖速度1はじめに霞ヶ浦(西浦)の藍藻は,2007年以降に夏季のMicrocystis優占から通年のユレモ目優占へと遷移した。ユレモ目で優占していた種はPlanktothrixsuspensaであった1)。2010年から2011年にかけて,Pla. suspensaの季節変動を調査したところ,冬季から初夏(11月から翌年6月)まで増殖した2, 3)。アオコの現象の原因となるMicrocystisなどは,高水温に適応していることから4, 5),初夏から著しい増殖が確認され,夏季にブルームが形成される。福井県三方五湖の1つである三方湖では,Pla.suspensaと同属のPla. agardihiiが6月から9月の夏季に増殖しブルームを形成した6)。しかし,霞ヶ浦で出現したPla. suspensaは,水温が低くなる11月から増殖し始め,6月以降の夏季は現存量が減少することから,藍藻ブルーム形成種の中でも低水温に適応していることが示唆された。Planktothrixに属する種の中には,有光層より深い深度で,極大を示すことが指摘されている7-11)。Watanabe 11)は,茨城県龍ヶ崎市に位置する中沼(水深約14m;有光層約6m)の鉛直分布調査において,Oscillatoria mougeotii(Pla. isothrix)が深度5 mから深度10 mまでに分布していることを明らかにしている。中村ら2, 3)においても,霞ヶ浦湖心(水深約6 m)では,深度3 m以深にPla. suspensaの現存量が極大を示していた。加えて,Pla.suspensaが増殖している冬季の霞ヶ浦の湖水(植物プランクトン)を,表層と深度3mで7日間培養した場合,表層で培養した系では,珪藻が優占し,深度3 mの系ではPla. suspensaが優占した2, 3)。以上のことから,PlanktothrixはShade-adaptedSpeciesであると考えられ7, 8),Pla. suspensaも弱光環境に適応できることが示唆される。上述したように,Pla. suspensaは低水温・弱光環境に適応した種であることが示唆された。しかしながら,この仮説は植物プランクトンの競争がある環境から得た知見から導き出したものであり,本来のPla.suspensaの増殖特性であるかを検討する必要がある。Planktothrixに関する水温・光環境に対する増殖特性は,Pla. agardihiiなどで検討されている6, 9),Pla. suspensaの増殖特性を検討した報告は見られない。また,検討に必要な分離株も存在しない12)。そこで,本研究では,霞ヶ浦の湖水からPla.suspensaを分離し,Pla. suspensa分離株の増殖に対する水温・光環境の影響を調査した。2方法2.1株の分離2011年の春季(3月から5月)において,霞ヶ浦(西浦)湖心(36°02′16″N 140°24′15″E,水深7m)で,採取した湖水からPla. suspensaをピペット洗12)浄法で分離した。分離したPla. suspensaは,試験まで20℃, 20μmols m -2 sec -1(連続照射)の条件で設定した恒温培養器(高崎科学機器)を使13)用し,MA培地の継代培養で維持した。2.2試験法2.2.1馴致培養Pla. suspensaの分離株はトリコームで分離した。また,DAPI染色を行って無菌化を確認していない。したがって,馴致培養前にオートクレーブで濾過滅菌したメンブレンフィルター(3μm;ADVANTEC)および濾過器具(PALL)を用いて株を洗浄した。馴致培養は,洗浄した分離株を13)MA培地で,5日間行った。2.2.2試験法増殖特性試験は,12, 16, 20, 24, 28℃の5系の温茨城県霞ケ浦環境科学センター年報,No9,2013 35