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概要

歴史館だより No.109

特別展「近世水戸の画人-奇才・十江と粋人・遷喬-」平成26年10月11日(土)~11月24日(月・振替休日)平成26年芸術に親しむ秋,茨城県立歴史館におきまして特別展「近世水戸の画人-奇才・十江と粋人・遷喬-」を開催いたします。江戸時代後半の水戸に生まれ育ち,画壇に一石を投じた水戸の三画人,林十江・立原杏所・萩谷遷喬のうち林十江(1777~1813),萩谷遷喬(1779~1857)の2人の作品を中心に,同時期の画人の関連作品もあわせて江戸絵画の魅力を紹介します。林十江は下市の酒造業の町人の家に生まれ,醤油醸造を営む伯父の家に養子に出されます。武家にも町人にも文芸や書画に親しむ雰囲気が芽生えてきた水戸城下の下市に育ち,誰にも真似のできない個性的な画を描きました。それはただ風流と言うだけではない現実を見すえた自分の感情の発露を画に投影しました。そこから垣間見えるのは,裕福ながら不安を抱える水戸の町人の様子かもしれません。萩谷遷喬は十江の2年後に水戸藩士の家に生まれ,奥右筆や書院番などを務め,水戸城下の下梅香に屋敷がありました。画を得意としていたため,30代半ばに立原杏所が江戸詰めになった後,水戸での藩の文雅の御用に多く関わりました。9代藩主徳川斉昭の肖像画や弘道館の小襖絵,弘道館碑上部の龍のデザイン,偕楽園好文亭内の板戸絵(これは戦災で焼失)などまさに水戸藩の地元アートディレクターでした。また彰考館や弘道館で活躍した水戸藩士青山延于・延光親子など多くの水戸藩士と交流し,花鳥画や人物画などが地元に伝わっています。十江が町人出身で37歳で夭折したのに対し(これは中村彝と同じです),遷喬が水戸藩士(武士)で長命(79歳)という対照的な2人ですが,共通点は,ともにその生涯のほとんどを水戸で過ごし,その雰囲気の中で作画をしていたということです。町人と藩士という違いはあれ,2人の作品は水戸やその周辺の人々の身近にあったといえます。今回の展覧会は現在確認できる2人の作品を一度に展観できるまたとない機会です。江戸期の水戸(水府)は,「水の戸」の名にふさわしい水が豊かで,自然と人々の暮らしが近い街でした。この環境は少なからず2人の画にも影響していると考えられ,今の様子を写真などで紹介しつつ,江戸期の絵図などとの比較から当時の様子を浮き彫りにできるような展示で,郷土学習にも役立てていただけるようにしたいと考えています。また「画を描く」という文化が藩士や町人に大きく広がった環境が江戸ばかりでなく,水戸にも大いにあったということを示し,郷土水戸を違った側面から考える一助にもしたいと思います。日本では古来から絵画や工芸品を生活の調度として身近に置いて「美や飾り」に日常の中でふれ合ってきました。この感性を現在において再認識してもらう分かりやすく親しみやすい展示にしたいと考えています。1