ブックタイトル茨城県近代美術館 美術館だより No.98
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茨城県近代美術館 美術館だより No.98
2 新館長就任のご挨拶この二ヶ月で思うこと 市川政憲前館長の後をひきついで、この美術館に着任してから既に2ヶ月がたちました。満開の花が雨に煙っていた千波湖の桜の木が、もう青葉を全身にまとって陽光に輝いています。行き帰りに通る桜川では、つがいの黒鳥が幼鳥をひきつれて、悠々と泳いでいるのを時折見かけます。ここ一週間は梅雨を通り越し、一気に夏が来たような暑さです。本当に時間のたつのは、早いものです。 時はあっという間に過ぎ去っていくにもかかわらず、私には今後の美術館運営について長期的な見通しはほとんど立っていません。まだまだ、日々の雑務に追われているという状況です。もっとも私自身、学芸員生活のほとんどを東京、京都の両国立美術館で過ごしており、地方の美術館についてよくわかっていないことも大きな理由の一つです。今や国立美術館は独立行政法人に移行したとはいえ、やはり地方とは運営上の方法にはかなりの違いがあります。予算規模の大小はもちろんですが、その執行についてもそれなりの差異があります。企画展の進め方で、企画会社やマスコミとの関係もまったく異なっています。 そうしたなかでも本来ならばそれなりの理想が必要なのでしょうが、はっきりとしたものがまだ持てません。ただ私個人としては、美術館とは基本的に美術に関する研究機関だと思っています。それが大学の研究室と違うのは、作品そのものを収集し、研究し、展示し、なおかつ保存していく役割をもっているところにあります。さらにいえば研究成果の発表があくまで実際に作品を提示することで成り立つものであり、かつそれは研究者だけでなく、一般の人々にもわかりやすいかたちで語られねばならないということです。そこに研究施設とは別の、社会教育機関としての美術館の側面があると思っています。 地方に公立の美術館が次々とつくられるようになって、もう40年ほどになります。しかし美術館は、建物をつくればよい、そこに当初購入した所蔵品を陳列しておけばよいというわけにはいきません。建設時の理念にそって収蔵品をさらに充実させ、研究し、さらに展覧会を企画してゆく過程で成長していく必要があります。美術館自身も伝統を継承しつつ、時代にあわせて新しい展開を模索していくことで大きくなっていくことができます。 しかしバブル崩壊後、美術館は冬の時代を迎え、そのままの状態が今なお続いています。特に地方の美術館は厳しい状況にあります。もちろん予算の大幅な削減が、その大きな原因であることはいうまでもありません。母体となる県なり、市なりの財政状況が極度に悪化するなかで、文化予算が圧迫されることは当然と言えば当然かもしれません。文化の一端を担う美術もまたしかりです。 確かに、美術は人間の日常生活、その生をつないでいく上では、絶対必要なものではないかもしれません。それでも人間が生きていく時に、生きる勇気や安らぎを与えてくれます。生まれ育った場所の美術を、その歴史を知ることで、自身のうちに知らず流れる特質を理解できます。また遠く離れた別の地の美術に触れ、その成り立ちや意味を学ぶことで、他者の存在についてより深い認識を得ることができます。それは互いを尊重していくことにもつながる筈です。およそ文化を大事にしない世界ほど、殺伐とした世界はありません。 もう一つ、この頃に顕在化した問題は、美術館が一般社会からはるかに遊離し、非日常的な存在になっていたことです。それは歴史の浅い日本の博物館、美術館が抱えこまざるをえなかったことかもしれません。美術館が本格的な活動をはじめたのは戦後のことですが、仕事の内容はともかく、性格的には戦前からあった帝室博物館のそれをそのまま引きずっていたように見えます。美術を愛し、鑑賞する人を地道に育ててこなかったという事実です。わかる人だけくればよい、いわば美術館が一段高みから社会を見ていたことは疑いありません。それが美術館へ足を運ぶ人をさらに遠のけ、今日の危機を増幅したといえます。これをどう乗り越えていくかも、今後、十分に考える必要があります。 茨城県近代美術館も、似たような状況に置かれているといえるでしょう。三年後には三十周年を迎えますが、予算的な問題だけでなく、建物のメンテナンス等、問題は山積しています。市川前館長はじめ、職員の方々が知恵を絞って努力されてきたことには敬意を表します。ただ、今後もそれ以上の努力が必要なようです。それでも限度はあります。そんな中で何かできるのか。先の様子は茫洋として、よくわかりません。眼先のことを片づけるだけで、終わってしまうかもしれません。ただ限られた時間で精一杯の努力をするつもりでおりますので、よろしく御支援くださいますようお願いいたします。MOMAIBARAKI館長尾﨑正明